数次相続の登記手続き②~最終の相続人が1人の場合~
数次相続とは、ある方の死亡により相続が開始したが、遺産分割協議や相続登記を行わないでいるうちに、さらに相続人が亡くなってしまい、前の遺産相続の手続きをしないうちに、次の相続が開始してしまっている状態を「数次相続」と呼びます。
前回、数次相続が起こった場合で、最終の相続人へ直接移転登記ができる場合について説明させていただきました。
ここでは、最終の相続人へ直接移転登記ができない場合について説明致します。
最終の相続人へ直接移転登記できない場合
中間の相続が単独相続でない場合には、直接、最終の相続人へ登記することができません。
例えば、父親Aが死亡し、第1次相続開始後に、長男Bと次男Cが共同相続し、各2分の1ずつ相続するとの遺産分割協議が成立していたとします。
その後、その旨の相続登記をする前に、長男Bが死亡し、第2次相続が開始したため、長男Bが相続するはずだった2分の1を長男の妻Dが相続するとの遺産分割協議が成立していたとします。
この場合、最終的には長男の妻D2分の1、次男C2分の1の共有名義になりますが、2通の遺産分割協議書を添付しても、父親Aから、長男の妻Dおよび次男Cへ1件の申請によって直接相続登記することはできません。
なぜなら、第1次相続が長男Bと次男Cの共同相続で単独相続ではないからです。
この場合、父親Aから、長男Bおよび次男Cへの各2分の1ずつの共有による相続登記を申請した後に、長男Bからその妻Dへの相続登記を申請する必要があります。
相続登記の登記原因の記載
【第1次相続】
登記の目的 所有権移転
登記原因 平成○○年〇〇月〇〇日相続(父親の死亡日)
相 続 人 持分2分の1 長男B
2分の1 次男C
【第2次相続】
登記の目的 長男B持分全部移転
登記原因 平成○○年〇〇月〇〇日相続(長男Bの死亡日)
相 続 人 持分2分の1 長男の妻D
最終相続人が1人の場合にも、直接移転登記ができるのか?
上記で説明したように、登記手続き上、中間の相続が単独相続である場合に限り、登記原因およびその日付を連記した上で、登記名義人から最終の相続人名義に直接相続登記をすることができるとされています。
例えば、夫Aが亡くなり、その相続人が妻Bとその子Cのみであり、夫Aの遺産について各2分の1ずつ相続し、その相続登記をしないうちに、さらに妻Bも亡くなり、子Cのみが最終の相続人となった場合はどうなるのでしょうか。
上記の相続関係では、中間の相続人は数人ですが、最終の相続人は1人です。
この場合であっても、最終相続人が作成した遺産処分決定書または遺産分割協議書を添付することにより、直接最終相続人への相続登記が可能であったのがかつての登記実務でした。
なぜなら、最終相続人が被相続人(上記の妻B)の権利義務だけでなく、BがAから承継した権利義務も承継しているところから、両者の立場を併有している者として遺産分割協議が行えるからだとされています。
ところが、近年、これまでの登記実務が否定されています。
登記研究758
甲の死亡により、配偶者乙と甲乙の子丙が共同相続人となったが、相続登記未了の間に乙が死亡した場合において、甲から丙に相続を原因とする所有権の移転の登記をするためには、丙を相続人とする遺産分割協議書又は乙の特別受益証明書等を添付する必要があり、これらの添付がない場合には、乙丙へ相続を原因とする所有権の移転の登記をした上で、乙の持分について丙へ相続を原因とする所有権の移転の登記をすべきである。
東京地裁平成26年3月13日判決
【判示事項】
被相続人甲の遺産について遺産分割未了のまま他の相続人が死亡したから当該遺産全部を直接相続した旨を記載した遺産分割決定書と題する書面を添付してされた当該遺産に属する不動産に係る相続を原因とする所有権移転登記申請に対し,登記官が登記原因証明情報の提供がないとしてした却下決定が,適法とされた事例
【裁判要旨】
被相続人甲の相続人が乙及び丙の2人であり,被相続人甲の死亡に伴う第1次相続について遺産分割未了のまま乙が死亡し,乙の死亡に伴う第2次相続における相続人が丙のみである場合において,丙が被相続人甲の遺産全部を直接相続した旨を記載した遺産分割決定書と題する書面を添付してした当該遺産に属する不動産に係る第1次相続を原因とする所有権移転登記申請については,被相続人甲の遺産は,第1次相続の開始時において,丙及び乙に遺産共有の状態で帰属し,その後,第2次相続の開始時において,その全てが丙に帰属したというべきであり,上記遺産分割決定書によって丙が被相続人甲の遺産全部を直接相続したことを形式的に審査し得るものではないから,登記官が登記原因証明情報の提供がないとして不動産登記法25条9号に基づき上記申請を却下した決定は,適法である。
つまり、1次相続の時点で共同相続人である妻子の共有状態だったのが、2次相続が開始した時点ですべての権利義務が子に承継されるので、その後になって、遺産分割協議をする余地はないとしています。