相続放棄における3ヶ月の期間
相続放棄の判断は、法律上「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に、家庭裁判所に申立てをしなければならないと規定されています。
この3ヶ月間の期間を「熟慮期間」といいます。
ここで、勘違いしてはいけないのは、相続開始から3ヶ月以内ではないということです。
3ヶ月の熟慮期間の起算点
では、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とはどういうときなのでしょうか。
具体的には、
1.「被相続人が死亡した事実を知り」
かつ
2.「自己が法律上相続人となった事実を知ったとき」
です。この上記の事実を知った時が、自己のために相続の開始があったことを知った時であり、その時から3ヶ月以内であれば相続放棄ができます。
※例1 相続人が死亡の事実を後日知った場合
Aさんが2000年1月1日に死亡。
Aさんの子供であるBさんが2000年6月1日にAさんの死亡を知った。
この場合、Bさんは2000年6月1日から3ヶ月以内に相続放棄をすればよいことになります。
2000年1月1日から3ヶ月以内ではありません。
Bさんは2000年6月1日までAさんの死亡の事実を知らなかったため、相続放棄をしようにもできなかったためです。
※例2 子供が相続放棄したことによって、兄弟が相続人になった場合
Aさんが2000年1月1日に死亡。
Aさんの子供であるBさんが2000年3月1日に相続放棄。
Aさんの兄弟であるCさんが、Aさんが死亡したことは知っていたが、2000年6月1日にBが相続放棄をしたことによって、自分が相続人になったことを知った。
この場合、Cさんは2000年6月1日から3ヶ月以内に相続放棄をすればよいことになります。
Cさんは2000年6月1日まで自分が相続人である事実を知らなかったため、相続放棄をしようにもできなかったためです。
特別な事情がある場合の熟慮期間の起算点
前述の通り、相続放棄の申述ができるのは、原則、「被相続人が死亡した事実を知り」かつ「自己が法律上相続人となった事実を知ったとき」から3ヶ月以内です。
ただし、例外的に、相続人が被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたために、相続放棄の申述をしないまま熟慮期間が経過した場合、そう信じたことについて相当の理由があると認められるときは、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時、または通常これを認識できる時から熟慮期間がスタートするとされています。
つまり、相続人が被相続人の借金について全く知らなかった場合には、被相続人が死亡してから3ヶ月経過後であっても、相続放棄が認められる可能性が高くなるということになります。
※関連判例
相続放棄の熟慮期間の起算点について、(1)熟慮期間は、原則として、相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた時から起算すべきものであるが、(2)相続人が、右各事実を知つた場合であつても、①右各事実を知つた時から3ヶ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、②被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、③相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当であると判示しています。(最高裁判所第二小法廷昭和59年4月27日判決)
家庭裁判所に書類を提出する日が3ヶ月以内であればよい
相続放棄で問題となる3ヶ月という期間は、相続人がどういう手続きをとるのか考える時間です。
つまり、この3ヶ月の期間内に、相続するのか、限定承認するのか、相続を放棄するのか決めるのです。
だからこそ、この熟慮期間に、相続放棄について家庭裁判所で審査する期間は含まれません。
例えば、被相続人の死亡の事実を知ってから2ヶ月後に家庭裁判所に相続放棄に関する書類を提出。
その後、家庭裁判所が相続放棄を審査するのに2ヶ月掛かり、被相続人の死亡から4ヶ月後に相続放棄が認められた場合。
この場合も、3ヶ月という期間内に相続放棄が成立したことになります。
家庭裁判所に「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に書類提出したかが大切であって、家庭裁判所での審査時間は、一切結果に影響しません。